草舟座右銘

「孤高のリアリズム ―戸嶋靖昌の芸術―」展

スペイン大使館展示 あいさつ 展覧会パネル文章

 今回、戸嶋靖昌の芸術が駐日スペイン大使館の御厚意により公開されることを、私は大変に嬉しく思います。戸嶋は、スペインを心の底から愛しておりました。死のその日までスペインのことを私に語り続けていたのです。その戸嶋の芸術が、駐日スペイン大使館の美術展示場で展覧されることは、多くの戸嶋靖昌関係者にとっても、また大きな喜こびと申せましょう。そして、何よりも今は亡き戸嶋自身の霊魂が、この展覧会を喜んでいるに違いありません。そういう戸嶋の想いが、私の心に響き渡って来るのです。
 戸嶋は、生前に祖国である日本を愛する気持を、いつでも私に語っていました。しかし、いつでもその愛する祖国よりも、スペインの人情と風土に対する愛の方を自身の中で上に置いていたのです。死のその日まで、スペインという国とその人々から受けた恩義をいつでも語り続けていました。そして、スペインの偉大な芸術が、自分自身をどれほど幸福にしてくれたかを話し続けていたのです。ベラスケス、エル・グレコ、スルバラン等々、スペインの芸術から受けた衝撃を生涯に亘って抱き締めていました。また現代において誰れよりも愛した芸術家が、ピカソであったことも偶然ではないでしょう。
 戸嶋靖昌は、「生命の神秘」を生涯に亘って追求し続けていたのです。「物自体」がもつ生命、「人間自体」がもつ生命というものを追求し続けていたのです。だから、日本において戸嶋は、人物の他には森ばかりを画いていました。その深淵の奥深くに潜む神秘をえぐり出したかったに違いありません。戸嶋は、生命の神秘に肉薄するために、絵画そのものの技術的問題をも無視してしまうような描き方をしていたのです。そして、三十代後半に越え難い壁に遭遇したのです。その時、戸嶋に「飛躍」をもたらしてくれたものが、「スペイン」という歴史的実在であったのです。戸嶋は、自己の生存の危機を、スペインという偉大な文化に触れることによって乗り越えたのです。スペイン人がもつ信仰と神秘思想、そして異文化の衝突が生み出した魅力ある複雑な文化が、戸嶋の生命と芸術に大いなる恩恵を施してくれたのです。戸嶋は、人生の後半をスペインで生きることにより、真の芸術家としての人生を全う出来たのだと私は思っています。スペインの文化に囲まれて、戸嶋は真に生き返ったと言えるでしょう。
 戸嶋にとってスペインは、間違いなく第二の祖国なのです。戸嶋が生涯をかけて交流したスペインという国、そして人々との絆が、この駐日スペイン大使館の展覧会によってより強まることを私は望んでいます。この幸福を、亡き戸嶋靖昌とその芸術を顕彰する「戸嶋靖昌記念館」、そして戸嶋を愛する多くの方々に与えて下さった駐日スペイン大使館の人たちに心から感謝をいたします。開催を愛でてあいさつ文をしたためて下さった駐日スペイン大使のゴンサロ・デ・ベニート閣下、そして戸嶋を愛し、記念館館長との対談までして下さった文化担当参事官のサンティアゴ・エレロ・アミーゴ様、戸嶋芸術を愛好下さった事務長ハビエル・イスキエルド様、会場の実務を担当されたハビエル・サンチェス様、また戸嶋芸術を理解し本展覧会の図録をデザインして下さった建築家のモニカ・ヴィジャルヴァ・デ・マダリアーガ様にはそれぞれに深く感謝の意を表したいと思います。本当にありがとうございました。

平成二十七年六月四日
執行草舟
  • 〈「孤高のリアリズム ―戸嶋靖昌の芸術―」展 チラシ〉
  • 〈本展覧会図録〉
〈展覧会名〉
「孤高のリアリズム ―戸嶋靖昌の芸術―」展
〈会期〉
2015年11月5日~11月28日
〈概要〉
戸嶋靖昌の個展として、大規模な公的機関の中で初めて行なわれた展覧会です。入場者数が5000人を超え、スペイン大使館の催しとしては、150年近くの歴史ある大使館史上最高の入場者数となりました。スペイン大使、文化担当参事官のご協力の下、多くの方へ戸嶋芸術を広める機会となりました。また、NHKの日曜美術館のアートシーンで展覧会の様子が取り上げられました。

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