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「戸嶋靖昌の見たスペイン」展

見るために生まれた 展覧会パネル文章

 戸嶋靖昌は、「見るため」に生まれて来た。その生命は、あらゆるものを見ることによって躍動したのだ。見るものに恋し、見るものの中に生命の本源を感じていたのだろう。心の中に、「驚き」の感情を持ち続けていた。その心が、戸嶋の芸術を支えていたことは間違いない。少年のような感動を戸嶋は持ち続けていた。少年のような笑顔で、少年のように生きた。そして、最期の日までそうだったのだ。飽きることの無い好奇心が、その透き通るような「少年の目」に点じられていた。
 戸嶋靖昌は、そのように生きた。だから、人間そのものの存在もまた、「感動の主体」と見ていたのである。それをキャンバスに落とし込もうとした。その凄絶な葛藤こそが、戸嶋芸術を形創っている。感動の主体に、戸嶋が「目」を持って来たのはそのような理由によるのだろう。目を、人間生命の中心に据えた。だからこそ、目を簡単に扱うことが出来なかったのだ。目を描くことそのものを畏れていた。生命の中で、何よりも目の存在を愛し、目の深淵を畏れていた。
 肖像画においては、「目は、自然に生まれ出てこなければならない」。それが戸嶋の口癖であった。戸嶋の描く肖像画は、全て見つめる人間の姿である。その見つめる主体の人間に生命を吹き込むために、「目は画家が描いてはならないのだ」と戸嶋は言っていた。本当の感動が、人間の存在の中から生まれてくれば、目は描かなくとも目に成るはずだという信念を持っていた。だから本当の目は、その人物の生命から自然に湧き出づる必要があった。それを形にする苦悩を、戸嶋は生きたと言っていい。戸嶋の慟哭が、キャンバスを覆う痕跡と化したことの意味を私はそこに感じているのだ。

戸嶋靖昌記念館館長
執行草舟
  • 〈「戸嶋靖昌の見たスペイン」展 チラシ〉
  • 〈「戸嶋靖昌の見たスペイン」展 ハガキ〉
〈展覧会名〉
「戸嶋靖昌の見たスペイン」展
〈会期〉
2017年5月12日~6月11日
〈概要〉
スペインに渡り約三十年間、その風土と人びとを見つめ描き続けた魂の画家・戸嶋靖昌。グラナダ・アルバイシンの旧市街で数多く制作した、魅力的な風景、人びとの肖像を中心に、戸嶋の憧憬と愛情の眼差しを感じる写真フィルムも合わせて展示しました。

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