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第8回「戸嶋靖昌 ―光のゆらぎ―」展

展覧会パネル文章

光のゆらぎ

 「思索こそが、レンブラントに始まる革命の精神を支えている」。そう戸嶋靖昌は言っていた。この革命が、光との戦いを意味するのだ。それは芸術家に死に至る苦悩をもたらした。近代の苦悩である。その苦悩を、戸嶋は自らの「思索」としていた。光線のもつ実存を思索することが、戸嶋の芸術に深淵を穿ち続けた。我々の棲む世界の次元を超えた「光のゆらぎ」を見出さねばならぬ。それを、自己の脳髄の奥底で行なっていた。いま生まれつつある光が、いま死につつある光を干渉する。思索とは、この芸術的エネルギーの変換を言うのだ。メルロ=ポンティは、その変換を光の「実存的永遠性」と呼んだ。それによって、光はを放ち独自のゆらぎを獲得するのだ。だからこそ、戸嶋の見る光は、無限の次元に向かって放たれて行くのである。

闇のささやき

 平野遼は、闇の中に棲み続けた。闇は、平野にとって光そのものであった。宇宙に漂う希望を、漆黒の中に凝縮していたのだ。漆黒の実存が、その芸術に生命を与えている。平野は、漆黒のエネルギーを吸い、己れの体奥から熱情を発するのである。自らの存在を漆黒に投げ入れ、独自の哲学を創り上げていた。光のないアトリエ、それが平野の居場所なのだ。その魂は、闇の中にうごめく。そして、呻吟の果てに、洞窟の壁画を仰ぎ見る原始の生命に出会ったのだろう。ランボーを友とし、唯ひとり生きた。平野を見つめるランボーの眼差しだけが、その本質を知っているに違いない。しかし、その詩人すらが「私とは、一個の他者なのだ」とささやく。孤独が、降り注いで来る。
執行草舟
  • 〈展覧会 案内葉書〉上絵「風の光線」 戸嶋靖昌 画
  • 〈展覧会イメージ作品〉「鳥」 平野遼 画
〈展覧会名〉
第8回「戸嶋靖昌 ―光のゆらぎ―」展
〈会期〉
2013年12月16日~2014年3月29日
〈概要〉
執行草舟によると、戸嶋靖昌は光のなかにある生命の悲哀を描いており、光の美しさを表面的に捉えるのではなく、光の「実存」を追求し、幽玄なゆらぎを絵画に現わしているといいます。今回の展示では、戸嶋の捉えたその光のゆらぎに焦点をあてて作品をご紹介いたします。
また闇のささやきを描く画家、平野遼の作品も合わせて展示します。

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