草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』より

    人は無償で何ものかを得ることはできない。

    《 One can’t have something for nothing. 》

  人間は、未来のゆえに生きることが出来るのだ。未来がなければ、我々は今日の日を生きることさえ出来ないだろう。我々に生を与えてくれる恩寵とは、未来そのものに他ならない。未来だけが、我々の現実に希望を授けてくれる。人間とは、希望が生み出した宇宙的実存である。この大宇宙に意味がある限り、人間の存在は宇宙の必然となっているのだ。我々は、その未来をこの双肩に担って生まれて来た。人間の誕生の秘密は、そこに存している。我々の未来は、神の希望でもあるのだ。
  希望だけが、私の人生を支えて来た。人間の夢が、私に信念を培わせて来たのである。その夢の軸心を、私は武士道の深淵から汲み上げて来た。その武士道が、最も共振する作家のひとりに、英国のオルダス・ハクスリーがいた。英国最高の知性と謳われたハクスリーは、私の夢に量り知れない資源をべ続けてくれたのだ。その予言文学において、私に私の未来を投射してくれたのである。そして、人間に生まれた使命を私に伝達してくれたと言えよう。文学において、哲学において、ハクスリーは私自身と同化している。
  人類が、自身の未来について考えるとき、冒頭に挙げたハクスリーの言葉は、そのすべてを語っている。これはハクスリーの予言文学の核心的思想である。そして人類の未来を示す確実な「真理」なのだ。いかなることにも、その代償がある。それが分かるか、分からないかに未来はかかっている。自分たちの行ないは、必ず相応の代償と報いを受けるのだ。我々の文明は、行なった通りの結果になるだろう。我々は宇宙の意志によって人間となった。そして地球に守られて歴史を育んだのである。それが分かるか、分からないか。いま我々はそれを問われているに違いない。

2021年6月14日

オルダス・ハクスリー(1894-1963) イギリスの小説家、批評家。大学卒業後、詩作をよくしたが風刺小説『クローム・イエロー』の執筆を機に小説家としての地位を確立。人間の理性と本能の分裂を冷徹な知性で分析、ユーモアを交えて描いた。代表作に『すばらしい新世界』、『ガザに盲いて』等がある。

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