草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • パブロ・ピカソ「The Arts in New York」誌(1927年5月号に掲載されたピカソの言葉)より

    真の芸術は、虚偽の真実である。

    《 El Arte es una mentira que nos hace ver la verdad. 》

  ピカソの絵画との出会いは、私が中学一年のときだった。私は美術部に入部し、斎藤正夫先生の指導を受けていたのだ。先生は我々に対し、ピカソの絵画の分析研究を披露して下さった。その衝撃は、生涯に亘り私の絵画論を覆うものとなった。二十世紀におけるピカソの価値を、先生はその「勇気」に置いていたのである。芸術における破壊と生成の中に、我が身を投げ入れる勇気について語って下さった。その思想は、先生のもつ悪魔的な力によって我々生徒の心に深く打ち込まれた。
  私はピカソを、破壊の芸術家として今日でも尊敬している。真の芸術の根源を支える、その「破壊の思想」を述べたものが、この冒頭の言葉となるだろう。破壊と再生の真の意味である。その中枢には、勇気が存在しているのだ。社会や他者に認められる行ないが、たやすい人生を創ってしまう。勇気だけが、自己固有の使命に基づく人生を築く力となる。自己固有のものは、社会的に言えばすべて虚偽とされるものだ。その虚偽に、自己の命をかけられるかどうかが人生を決する。
  自己が信ずるものとは、始めはすべて虚偽だったものに他ならない。それを、この世の真実にすることが出来るかどうか。人生とは、それが問われている。だから信じられる自己の生き方を創った人間だけが、自己固有の人生を得られるのである。社会的に虚偽とされるものを、自己が真実として信じなければならない。そこに勇気の本質がある。芸術を中心として、価値のあるものはすべて、虚偽が生み出した真実と言えよう。人生の「未完」を覚悟した人だけに、それは出来る。

2021年10月30日

パブロ・ピカソ(1881-1973) スペイン出身の画家。マドリードの王立美術学校に学び、「青の時代」「バラ色の時代」を経てキュビズムを創始。その後も留まることなく新境地を切り開き続け、20世紀美術界を代表する人物となった。絵画のみならず陶芸、彫刻、版画等もよくした。「アビニョンの娘たち」、「ゲルニカ」等。

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