草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • ヘンリー・ヴォーン『火花散る火打ち石』(世界)より

    私はある夜、「永遠」を見た。

    《 I saw Eternity the other night. 》

  ヴォーンは、英国ルネッサンスの後に生を享けた詩人だった。ジョン・ダンの正統なる継承者と言うべきか。瞑想詩を書いてヴォーンの右に出る者は少ない。それは、ヴォーンにとって瞑想こそが「リアル」だったからに他ならない。現代人が忘れてしまった、真の信仰を持っていたのである。信仰に生きる者にとって、この世は大した価値を持っていない。自己の中に内在する、宇宙的実在である魂にこそ、真の「リアル」を感じていたのだ。その魂が、ヴォーンの詩を支えている。
  ヴォーンはある夜、「永遠」を見たと詩に謳った。私には、この決意と勇気がひしひしと伝わって来るのだ。自己の魂を信ずる高潔さが生み出す、真の「リアル」がここにあるのだ。自己を信ずる力のない者に、永遠は開示されない。永遠とは、つまりは宇宙の実在である。それと自己が合一できる者は、自分の生を信じている者に限られるだろう。自分の運命を信じ、自分の存在を信じ、自分の死後の永遠を信じられる者だ。そのような者にだけ、永遠は開示される。
  永遠の開示は、それを維持し持続する者にだけ力を与えることになる。瞬間の永遠は、どの生命にも与えられているのだ。その開示を永遠として自己に刻印する力が、自己の魂を信ずる力なのである。そして永遠の開示を受けた者は、自己に与えられた宇宙的使命を見出すことが出来るのだ。すべてが自己を信ずる力にかかっている。永遠は、いつでも実在するのだ。それを見ることが出来るか、出来ないか。そのすべてが、自己の生き方にかかっている。永遠を見れば、人間は人間の死を迎えることが出来るのだ。

2022年6月18日

ヘンリー・ヴォーン(1622-1695) イギリスの詩人。宗教詩で知られる。ウェールズの旧家出身であり、内乱のあと医者として生活していた。形而上派詩人として神秘的な詩の世界観で高い評価を得ている。『火花散る火打石』等。

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