草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  •  雪竇禅師『語録』より

    寥々(りょうりょう)たる天地(てんち)(かん)、独立して何の(きわま)りか有らん。

    《 寥寥天地間、独立有何極 》

  私は、この言葉の中にいつでも革命の息吹を感じている。我々が文明の中を生き抜くために、最も必要な心意気が革命の精神なのだ。自分ただ独りでも、この世の邪と戦う気概である。その気概が革命の精神だ。それを、ひしひしと感ずる。生命の悲哀に満ち満ちたこの世において、わが命を捧げ尽くすものは何か。それを求める体当たりの生き方こそが、人類に真の革命を生む。人間ひとりの、その生命の全力によって人類の存在理由(レゾン・デートル)のために尽くさなければならない。
  我々人間のもつ、真の力を知らなければならないのだ。人間の魂の力を感じるのである。その力は、宇宙から降り注いで来る。そして、その力は地底の地獄からも湧き上がって来る。そのど真ん中に、我々はただ独りで立っているのだ。その自覚が、自分の魂を人類的なものにまで引き上げてくれる。我々人間は、無限の力を天と地から受けている。そこにただ独りで屹立すれば、その力は我々の中に漲って来る。天地の力を、自己に引き寄せなければならない。
  この思想を知ったとき、私の中に人間の魂に対する限り無い憧れが浮かんだ。それだけの力が、この言葉にあったのだ。思春期に、宮崎龍介氏から教えてもらった。明治の自由民権運動以来の、革命の名残を湛える人物である。それがまた、良い作用をもたらしたに違いない。私は悲哀から生まれたこの天地にあって、ただ独りの人間として立つ決心を固めていた。その時期に、この言葉を知ったのだ。宮崎龍介氏は、わが革命精神の恩人である。

2020年12月14日

掲載箇所(執行草舟著作):『夏日烈烈』p.430
雪竇禅師(980-1052) 中国、宋の僧。幼少の頃に両親を亡くし出家。雪竇山の資聖寺に30年以上住して、雲門宗の復興を果たす。詩文に優れ、『頌古百則』を著して後の禅に大きな影響を与えた。その言行は『雪竇明覚禅師語録』に見ることができる。

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