「イタリアの響き―田中昇」展
イタリアの響き―田中昇
展覧会パネル文章
田中昇には、人間の生の悲哀が鎮もれている。その生は、深い慟哭の中から生まれているに違いない。生の悲しみが、イタリアの空の下で哭いていると言ってもいい。そういう作品だ。明るく澄み切ったイタリアの空の下で、田中昇は十全に自らのもつ悲哀を愛おしむことが出来たのだ。イタリアのもつ響きが、この画伯の心の奥に浸み込んで来た。イタリアの響き、それは新しい生の響きである。自己の中にある血の悲しみを、イタリアの清純が癒し尽くしてくれる。私は画伯の絵に、ダンテの『新生』を感ずるのだ。それは人間の苦悩を洗い流す恩寵と同じものだろう。ダンテは、その「憧れ」を『新生』の中に述べている。その人間のもつ真の憧れこそが、田中昇の画業を支える精神と成った。「ここに、新しき生が始まる」とダンテは語った。画伯の絵もまた、私にそう語りかけてくるのだ。
執行草舟
〈展覧会 案内葉書〉イタリア風景 田中昇 画
〈展覧会イメージ作品〉花の季節 戸嶋靖昌 画
- 〈展覧会名〉
- 「イタリアの響き―田中昇」 展
- 〈会期〉
- 2024年9月10日(火)~2024年11月30日(土)
- 〈概要〉
- 今回の展示では新しく草舟コレクションで保存・顕彰することになった、洋画家 田中昇(1934-1982)の作品を展示します。草舟いわくダンテの『神曲』『新生』を感じさせるような、哀愁おびたイタリアの風景を描き続けた田中昇。しかし田中は40代にして夭折します。この知られざる画家の作品を初めて展覧。常設にてはスペインで画業を続けた洋画家 戸嶋靖昌(1934-2006)の作品を展示します。大地から立ちのぼる響きを描いた、奇しくも同世代となる二人の眼を感じて頂けたら幸いです。