草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • マーク・トウェイン『赤道に沿って』より

    人間は赤面する唯一の動物である。

    《 Man is the only animal that blushes. 》

  マーク・トウェインの文学には、悲哀が匂い立っている。その悲哀の心情の下に、機知に富んだユーモアが漂うのだ。その魅力は、我々日本人の心情に通ずる独特の「あはれ」がある。トウェインのユーモアに触れることは、日本人に逆に日本的霊性を思い起こさせるのである。悲哀を湛えたユーモアは、人間の生活に深い味わいを醸し出すことになる。そして、その情感は恥の心情を育んでいくに違いない。悲哀を抱き締める生活は、人間に恥を重んずる生き方を課していくのだ。
  恥の心情は、人間を人間らしく育てる。恥ずかしいという気持は、人間にとって最も尊い心情なのだ。そして人間は、恥を感じたときに顔を赤らめる。その赤面は、人間の最も人間らしい発露に他ならない。私も自分の人生において、赤面をした思い出は深く印象に残っている。その印象は途轍もなく深い。赤面をした思い出の数々は、一つの例外もなく記憶にこびり付いている。そして、いつでも突然に思い出し、生涯に亘って私の行動を身震いと共に律する力があるのだ。
  冒頭の言葉によって、私は若き日より恥と赤面の尊さを知った。人間だけにある人間だけの尊さである。そして、恥を知る人間の美しさに出会う人生となった。その人たちは赤面と共に、その人間力を飛躍していったのだ。私も赤面したことだけが、自己変革に成功した事柄となった。恥の概念は、人間だけに与えられたものだ。だから、それは我々人類がもつ宇宙的使命に直結しているに違いない。現代人は恥を失いつつある。この頃は、人間の赤面を見ることも少なくなった。

2021年5月8日

マーク・トウェイン(1835-1910) アメリカの小説家。少年期に父を失い、印刷屋の奉公、ミシシッピ川の水先案内人を経て新聞社に勤務。文筆活動に入る。自身の幼年時代を自伝的に描いた小説で20世紀を代表する文学者となった。『トム・ソーヤーの冒険』、『ハックルベリ・フィンの冒険』等。

ページトップへ