草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • ミゲール・デ・ウナムーノ『生の悲劇的感情』より

    真の愛は、苦しみの中にしか存在しない。

    《 No hay verdadero amor sino en el dolor. 》

 私の青春は、魂の苦悩そのものでしかなかった。私は生きることに苦しみ、死の哲学のゆえに嗚咽し、生の文学の中に悲痛を感じ続けていた。私は呻吟していたのだ。私の魂は、慟哭の叫びと忿怒の炎によって爛れ果てた坩堝と化していた。愛の重力が、私の魂を圧し続けたのである。愛が自己の生命に、幸福をもたらすとは私には思えなかった。愛の無常を私は感じ続けていたのだ。私にとって、愛はこの世で最も大切なものに思えた。しかし、それはまた最も悲しいものだった。
 私は、そういう青春を送った。そして、青春のど真ん中でこのスペインの哲学者に邂逅したのだ。ウナムーノの苦悩は、私などの比ではなかった。しかしウナムーノは、その苦悩の中から、私の知る最も魅力ある思想を打ち立てたのだ。ウナムーノとの出会いが、私の青春を救い上げてくれたのである。私の苦悩は、この言葉に出会って自己の生命の奥深くに沈潜することが出来た。つまり、私の武士道の中に、愛を浸潤させることが出来たのだ。
 ウナムーノは、冒頭の言葉に続いて「そして、この世においては愛の苦悩を選ぶか、幸福を選ぶかのどちらかしかない」と言っている。つまり生きるとは、魂の愛を求めて苦悩するのか、またはすべてを諦めて幸福になるしかないということだ。私は、この清冽な哲学に出会って、苦悩の人生を生きる喜びを確信することとなった。私は愛を求める。人間実存の原点を求めて生きようと決意した。たとえ、そこが到達不能だとしても、私はそこへ向かって生きる。

2019年8月5日

ミゲール・デ・ウナムーノ(1864-1936) スペインの思想家・詩人。マドリッド大学に入学し、17ヶ国語を習得。36歳にしてギリシア語の教授職を務めていたサラマンカ大学の総長に任命された。スペインの内戦や米西戦争に対峙し、スペイン社会への問題提起を促して世界的に大きな文学的名声を得た。代表作に『生の悲劇的感情』、『ベラスケスのキリスト』、『ドン・キホーテとサンチョの生涯』等がある。

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