草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • ジャン=ポール・サルトル『実存主義とは何か』より

    人間は、自らが創ったものになる。

    《 L’homme sera tel qu’il se sera fait. 》

  サルトルの誇りが、この言葉を創った。人間ひとりの魂の力が、いかに巨大なものと成り得るかという問いである。ひとりの人間の力が、人類の未来を創り得る。私はそのような壮大な意志を感じているのだ。そして自分個人の魂の力が、全人類の意志の力と均衡を保ち得ると信じている。人類が成し遂げたものが自己であり、これからの人類が成し遂げるであろうものが自分自身の未来でもある。私はサルトルの矜持を感ずる。実存主義の現象学的還元の真の力を、私はここに見出しているのだ。
  サルトルは自己の魂の延長線上に、我々人類の未来を見ていると言えよう。それは過酷なものとなるかもしれない。そして、それは測り知れない破滅を導き出すかもしれないのだ。しかし、このサルトルの言葉には悲観がない。それはサルトルが、自己の責任において、人類の未来を語っているからに違いない。人類が滅びるなら、自己も滅びるつもりでいるのだ。そして人類が、より良く発展するなら、多分、自分も道を切り拓けるだろう。
  サルトルの予言には、いつでも颯爽とした男らしさを私は感ずる。だから、この予言は限りない魅力を放つのである。この予言は、私の武士道と激しく共振するものとなった。自己と人類、そして人類と自己の相関関係を私は把握したように思う。自分の命を、人類の未来に懸ける気概が生まれたのだ。そして人類の未来が、私の魂に還元する衝撃を私は噛み締めていた。このサルトルの思想の力によって、私は人類の未来と自己の未来を相似象の中に捉えることが出来たのだ。

2022年3月26日

掲載箇所(執行草舟著作):『「憧れ」の思想』p.64
ジャン=ポール・サルトル(1905-1980) フランスの哲学者・文学者。実存主義哲学を代表する人物として知られる。ドイツに留学しフッサールやハイデガーの哲学を学び、自身の思想を構築。抵抗運動でその思想を実践。マルクス主義哲学を批判しながらも、のちに左派陣営を支持。自身も積極的に政治活動へ参加した。『存在と無』、『嘔吐』等。

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