草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • レフ・シェストフ『死の哲学』より

    最後の審判は、この上なく大きな現実なのである。

  シェストフは、ロシアが生み出した最もロシア的な哲学者である。シェストフの魅力は、そのロシア的な荒涼たる空間の中に存している。私が初めてシェストフを知ったのは、その「ドストエフスキー論」によってだった。一読するや、私はシェストフの虜となり、それはいま現在も続いている。シェストフの深淵は、余人の遠く及ぶところではない。それは決定的な真実を持つものなのだ。私はシェストフによって、ドストエフスキーの新しい地平線を見出したのである。
  ドストエフスキーの他に、シェストフを支えているものの柱にニーチェとプロティノスがあった。それらの哲学も、シェストフによって私は道を拓かれたのだ。シェストフの中に、ギリシャ正教的な騎士道を感ずる者は私だけではあるまい。その哲学は、「高潔」という言葉が最もふさわしいだろう。男らしい潔さが、その思想全体を覆い尽くしている。「突進」の思想である。だから、シェストフとの出会いは、私にとっては宇宙的必然だったに違いないと思っている。
  シェストフの潔さは、現代人が忘れ去ってしまった「最後の審判」を想像するその力にある。人類に与えられた宇宙的使命を、身の内深く感ずるその感性だ。シェストフにとって冒頭の言葉は、その全思想を貫く真理なのだ。人間に与えられた宇宙的使命を、人類最大の正義としている。ここにおいて、私の武士道が、シェストフと激しい核融合を起こすのである。最後の審判は、私の人生にとってもすべての現実を創っている。私とシェストフは語り合う。たとえすべてを捨てても、人間はその宇宙的使命に生きなければならないということを語り合うのだ。

2022年6月4日

レフ・シェストフ(1866-1938) ロシアの哲学者・批評家。革命後フランスに亡命、パリ大学教授となる。理性主義に反発して神秘思想を研究。ニーチェとドストエフスキーの影響を受けて、神秘主義的実存哲学の視点から「不安の哲学」を提唱した。著書に『ドストエフスキーとニーチェ(悲劇の哲学)』、『虚無よりの創造』等がある。

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