草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • パーシー・シェリー『遺稿詩集』より

    この哀しみの国から捧げる、遠く離れたものへの祈り。

    《 The devotion to something afar             
                 From the sphere of our sorrow. 》

  シェリーがもつ抒情は、日本人の抱く「もののあわれ」によく通じるものがある。ロマン派を代表する詩人だが、英国人のもつロマンを超越した「何ものか」を放射している。あのT・S・エリオットが激しく攻撃した詩人としても知られている。つまり、英国的ではないもう一つの英国が映し出される詩人なのだ。その短く激しい人生は、『平家物語』の公達さえ思い浮かべるほどである。近代ではないものを見詰めていた人間として、近代の前に立ちはだかる思考なのかもしれない。
  それを愛する者と、それを憎む者にはっきりと分けられてしまうことになるだろう。もちろん私は、愛する者のひとりである。日本人である我々は、シェリーの住む世界を知っているからだ。それは古代から連綿と続く、日本語という言語を用いているからに他ならない。日本人の多くは、古代を身の内に抱えているのだ。それが日本の良いところでもあり、また悪い面でもあるだろう。それを良く出すことが、日本の将来を決定することになるのだろう。
  シェリーを読むことは、日本人が日本の感性を取り戻すことに役立つのだ。こういう詩人はめずらしい。冒頭の一節を私は高校生のときから座右に掲げている。もののあはれが分かれば、このシェリーの憧れは自らの憧れとなる。現世を哀しむことが、日本人の魂を呼び戻す。その魂は、遠い未来へ向かって叫んでいるのだ。絶対に到達できない憧れに向かって、我々の祖先は祈り続けた。我々日本人にとっては、現世などはいつでも価値がないのだ。

2022年7月23日

パーシー・シェリー(1792-1822) イギリスの詩人。バイロン、キーツと並んで19世紀のロマン主義文学を代表する人物。既成の権威や道徳への反抗心から、対社会的な理想主義に向かうようになった。自身の理想的な美の探究を詩作という形式で結実させた。代表作に『鎖を解かれたプロメテウス』、『詩の擁護』等がある。

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