草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • ジャン=ジャック・ルソー『新エロイーズ』(第一部)より

    偉大な情熱はすべて、孤独の中から生まれて来る。

    《 Toutes les grandes passions se forment dans la solitude. 》

  ルソーは、私の最も嫌いな思想家である。しかしその思想の核心が、私の魂を震わせるのだ。この不可思議を、私は体験しつつ生きて来た。その不思議を解明するために、私はルソーの著作をすべて研究した。『社会契約論』『人間不平等起源論』『エミール』『告白』そして最後に、この『新エロイーズ』と読み漁った。ルソーの魂にあるこの恋愛論に触れて、私は何かルソーの本質にやっと触れることが出来たように思っている。そこには、人間のもつ美しさが確かに響き渡っていたのだ。
  ルソーの核心の中に、私は一つの「忍ぶ恋」を見出した。その忍ぶ恋が、多分、あの破壊の哲学を生み出したのだろう。人間は誰もその人生に責任を持つことは出来ない。すべての人が、力一杯に生きることしか出来ないのだ。そうやって一つの生命が確かに「燃焼」する。その燃焼の中に、すべての憧れがあり、すべての憎しみが込められる。善悪を超越して、人間の魂が燃えさかるのだ。私はその燃えさかる魂の雄叫びを、ルソーの中にも見出すことが出来た。燃えさかる魂は、やはり美しかった。
  いかなる思想も、すべては孤独な魂の中から生まれて来るのだ。その思想の是非は問うべきものではない。生命から滴る涙が、歴史の中に結晶として残った。それが思想だ。私はその結晶をこそ愛する。ルソーの中に燃える忍ぶ恋を知ったとき、私は人類が生み出した思想の本質に触れた思いがした。孤独に耐える力だけが、魂から生ずる思想を生み出して来た。いかなる思想も、その例外ではない。孤独な魂の中に醸成されたもの以外は、従って思想を装った嘘の言説である。ルソーは、私に思想の核心を教えてくれたに違いない。

2022年10月29日

ジャン=ジャック・ルソー(1712-1778) フランスの啓蒙思想家・小説家。文明社会の非人間性を批判し「自然に還る」ことを主張。また知性偏重の教育に疑義を唱え、のち人民主権論を展開。フランス革命に大きな影響を与えた。著書に『社会契約論』、『エミール』等がある。

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