草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • ラルフ・ウォルド・エマーソン『エッセイ集』より

    優雅でなくては、人生ではない。

    《 I can no longer live without elegance. 》

  米国の詩人エマーソンは、その超越哲学において私の心を捉え続けて来た。その超絶した孤高が、私の魂を震わせ続けて来たのだ。真の独立自尊を、私はエマーソンの文学に見出していた。日本における内村鑑三の思想と共に、エマーソンは私が「絶対負」の思想を築く基盤を与えてくれた。私の「葉隠」は、エマーソンによって米国プロテスタント的展開を得ることが出来るようになったと言っていい。私にとっての「アメリカ」とは、いつでもエマーソンの魂に他ならないのだ。
  エマーソンの信念は、宇宙的である。それは歴史を貫徹し、いまの文明を穿つ力がある。それは根源的であり、また生命的と言えるだろう。キリスト教の、最も深く高貴な信仰が創り上げた崇高性なのだ。その崇高は、あらゆる現象を呑み込み消化してしまう。人生のあらゆる不幸が、エマーソンの中でひとつの優雅さと成っていることに気付く。その核融合とも言える力は、エマーソンの持つ頑固な信念によって成し遂げられている。信念が生む優雅さこそが、その人生を創っていた。
  あらゆる苦悩が、エマーソンに優雅さを与えていた。いかなる貧困も、また病気でさえもその優雅さを犯すことは出来なかった。人間の歩む人生とは、本当に豊かで優雅なものに違いない。そうではない人生があるなら、それはその人間が自分自身の人生を生きていないのだ。真の独立自尊とは、自己の人生を優雅と成す生き方である。真の人生は、不幸でも不様でもすべてが優雅とならなければならない。自己の生命に与えられた豊かさに気付けば、人は誰でも優雅さを身に纏うことが出来る。

2022年10月22日

ラルフ・ウォルド・エマーソン(1803-1882) アメリカの思想家・詩人。神学校を出て牧師となったが退職し、欧州遍歴。帰国後コンコードで講演、著述を始め、コンコードの哲人と呼ばれた。超絶主義を唱え、アメリカの思想・文学にロマン主義をもたらした人物として知られる。代表作に『偉人論』、『エッセイ集』等がある。

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