草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • インマヌエル・カント『判断力批判』より

    悟性の自由な合法則性、これが
    「無目的の合目的性」と言われるものだ。

    《 Der freien Gesetzmäßigkeit des Verstandes, welche auch
    "Zweckmäßigkeit ohne Zweck" genannt worden. 》

 悟性とは、人間的なものの総体を言う。つまり、人間力を形成するための知性や理解力そして分別などだ。それらが柔軟で自由に振舞うほど、宇宙と生命の摂理に適っている。そのような状態を、カントは「無目的の合目的性」(ツヴェックメースィヒカイト・オーネ・ツヴェック)と名付けたのである。そして、人間が人間として物事を判断するための、最も大切な資質としたのだ。私はこの思想に出会ったとき、自己の生命論が音を立てて肚に落ちて行く震動を感じた。人間がもつ、運命の根源をかいま見たのだ。
 その美しさを、私の魂が摑んだ。無目的の合目的性は、我々の人生の躍動そのものである。与えられた宿命を抱いて、我々は自己の生命の先に広がる運命に向かって突進する。私の武士道がもつ理想の生命が、この哲学の中に横たわっていた。私は、自己の生命が燃え上がるのを感じた。この生命がもつ奔流は、すべて宇宙の本質と合致しているのだ。人間は、元々そのように創られている。それが生命の根源にある。それが我々の魂の淵源なのだ。カントのもつ論理が、私のもつ美学をでてくれた。
 この思想を知ってから、私の生命は真の自由を得たように思う。それ以後の私は、自己の運命を信ずることが出来るようになった。目的が無くても、自己の生命を信ずれば、それは本源的な目的に間違いなく向かっているのだ。与えられた運命の中に、すでに正しい目的が収められている。そう、あのカントが論証してくれている。やはり『葉隠』が、最も正しい生命論だった。私の喜びは天を衝いた。我が生命の本当に自由な躍動こそが、すべての本源的価値を生み出す原因となるのだ。

2020年3月2日

掲載箇所(執行草舟著作):『根源へ』p.374、『生命の理念 Ⅰ』p.271
インマヌエル・カント(1724-1804) ドイツの哲学者。認識は対象の単なる模写ではなく、各々の主観の働きで諸感覚が秩序づけられることによって成立すると主張し、近代社会の基盤を確立。認識論における、いわゆる「コペルニクス的転回」をもたらす。代表作に『純粋理性批判』、『判断力批判』等。

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