草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • ピエール・コルネイユ『プシシェ』より

    「天」は一匹の蛇の(すみか)のために、数々の奇蹟のこの堆積を作ったのか。

    《 Le Ciel aurait-il fait cet amas de merveilles pour la demeure d’un serpent? 》

  私の愛読書の一つに、ポール・ヴァレリーの『若きパルク』がある。それは私の若き日の血潮を、最も吸引した哲学詩だった。私の生の慟哭を、情容赦なく見据えていたのだ。青春の呻吟が、そこにある「地獄の女神」の眼差しを受け続けていた。難解をもって知られるその長編詩に、私の生命が打ち勝つ日が来た。その引き金が、冒頭のコルネイユの言葉なのだ。これはヴァレリーが、『若きパルク』の劈頭に掲げていた言葉だった。この暗示を考え続けることによって、私はパルクを摑んだのである。
  人間は、自己自身の生命の尊厳を本当に知っているのか。それを知る者は、ほとんどいない。私も、もちろんすべてを知る者ではないが、少なくとも知る努力を続けているのだ。一匹の蛇とは、我々の生命の本源を司る宇宙エネルギーのことである。クンダリニーとも言われている。それが、我々の肉体に棲んでいるのだ。その宇宙的な運命を知らなければならない。クンダリニーには、宇宙の神秘がすべて凝縮している。それが、我々の生命の根源を創っている。
  我々の運命は、宇宙のすべてを知り尽くしている。我々は宇宙の一部であり、宇宙は我々の運命のまた一部なのだ。そして我々がこの世を生きるその運命は、すべて宇宙的使命によってすでに組み上げられている。それは、悠久の過去から永劫の未来に向かって、寸分も狂わずに作動している。その奇蹟が、この世を創っているのだ。その奇蹟の中を、我々は生きている。それが分かったとき、我々は自己の生命の尊厳を知る。そして、生命のもつ青春の雄叫びを抱き締めるのである。

2020年10月19日

ピエール・コルネイユ(1606-1684) フランスの劇作家。イエズス会の学校に学び、その後法律を修めて弁護士として働く傍らに戯曲を書いた。フランス古典劇の確立者として名高く、情念と理性の葛藤を意志で克服する英雄的人物を題材とした作品を創出。代表作に『ル・シッド』、『オラース』等がある。

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