草舟座右銘

執行草舟が愛する偉人たちの言葉を「草舟座右銘」とし、一つひとつの言葉との出会い、想い、情緒を、書き下ろします。いままで著作のなかで触れた言葉もありますが、改めて各偉人に対して感じることや、その言葉をどのように精神的支柱としてきたか、草舟が定期的にみなさまへご紹介します。ウェブサイトで初めて公開する座右銘も登場します。

  • オーギュスト・ロダン「遺言」より

    もっとも美しい課題は、あなた方の前にある。

    《 Les plus beaux sujets se trouvent devant vous:
    ce sont ceux que vous connaissez le mieux. 》

  詩人リルケは、ロダンの孤独の美しさを語ってまなかった。ロダンはその名声の頂点にあっても、自己の生き方を寸分も違えなかった。その人格を支えていたものが、ロダンのもつ偉大な孤独性だったのだ。孤独は、自己独自の運命が創り上げる芸術である。運命だけが、本当の孤独を自己に与えることが出来る。そして、その孤独の中で、自分の本当の生命が燃焼されることになるのだ。ロダンの芸術ほど、生命燃焼の刻印が深いものはない。
  そのロダンには、遺言がある。短いものだが、真にロダンらしい簡素な形式に裏打ちされたものと言えるだろう。その中にあって、私は冒頭に挙げた言葉にロダンの魂の本源を見た。質素で、孤独を愛した天才の核心とも言える思想である。ロダンは、自己の芸術の対象を探し求めることはなかった。それらは、すべて自己の目の前に展開されていたのだ。自己の運命を愛する人間にとって、それは自明のことだった。そして、それが残る者たちへ与える最後の愛の言葉となった。
  我々の目の前に、我々の運命が横たわっているのだ。それをロダンは、最も美しいものと言っている。それが、我々すべての目の前にもある。それを摑まなければならない。それを抱き締めなければならない。生命の燃焼とは、それに体当たりすることに他ならないのだ。自分の人生にとって、最も美しいものは間近にある。その認識が生まれれば、運命の車輪は弥が上にも回転していくのだ。

2020年11月02日

オーギュスト・ロダン(1840-1917) フランスの彫刻家。形式的なアカデミズムに反抗し、人間の内的生命を重んじた。19世紀を代表する彫刻家として知られ、近代彫刻に多大なる影響を与えた。詩人のリルケは一時期ロダンのもとで秘書を務め、その経験から評伝『ロダン』が生まれた。「地獄門」、「バルザック像」等。

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